はじめに

「なぜ、あの学部は留年・退学者が多いのだろうか」「この入試区分で入学した学生は、順調に卒業できているのだろうか」。
大学の教育改善に取り組む中で、こうした問いに明確なデータをもって向き合うことは、ますます重要になっています。

文部科学省の「教学マネジメント指針」では、「修業年限期間内卒業率」について、単なる数値目標としてではなく、「厳格な成績評価が行われていることを前提に、大学が、修業年限期間内において学生の資質・能力を計画的に伸ばし、学位の取得まで到達させていることを明らかにする」ための重要な指標として位置づけられています。

本記事では「IRQuA Touch」(イルカタッチ)を活用し、こうした教学マネジメント上の重要な問いに答えるための、多角的な分析アプローチをご紹介します。

IRQuA Touchとは?

IRQuA Touchは、IRQuAの基本機能を超えた高度な分析を実現する有償オプション機能です。IRQuAに蓄積されたデータを、Tableau Desktopでの分析に最適なフォーマットに変換・出力することで、より深く柔軟な分析を可能にします。

基本のIRQuAのダッシュボードでは予め用意されたグラフでの分析が中心となりますが、IRQuA Touchでは教職員の皆様が自由にデータを加工・分析できるため、標準修業年限内卒業率のような指標についても、より詳細で多角的な分析が可能になります。

IRQuA Touchの詳細は、以下の専用ページ及び過去のニュースを併せてご参照ください。
IRQuA Touch 紹介ページ
「IRQuA Touchリリース - IRQuA データのTableauでの分析が可能に」
「IRQuA Touch新機能:集計区分の実装でデータ分析が更に便利に」

修業年限期間内卒業率の分析

IRQuA Touchデータの準備

IRQuAからIRQuA Touchのワークブックとデータをダウンロードして、Tableau Desktopで開くと、以下のような画面が表示されます。

IRQuA Touchベースワークブックの分析画面

IRQuA Touchのデータには、現場に即した効果的なグラフや、分析に必要な学生の属性情報、入学年度、卒業年度、入試区分といった項目が予め整備されており、目的に応じた分析をすぐに開始することができます。

Step 1: 全体像の把握と課題の特定

では、分析の第一歩として、まず大学全体の状況を俯瞰し、傾向を把握することから始めます。
以下のグラフのように、学部学科別の修業年限期間内卒業率を100%積み上げ棒グラフで可視化します。

修業年限期間内卒業率の学部学科別分析のグラフ

これにより、各学部学科の状況を一目で比較することが可能になります。
例えば、化学科の卒業率が91.3%と高い水準にある一方、文学科は73.8%であり、比較検討すべき点があるかもしれない、といった「当たり」をつけることができます。

Step 2: 要因の深掘り(クロス分析)

次に、Step1で特定した傾向について、その要因を探ります。「特定の入学経路を辿った学生につまずきが見られるのではないか」という仮説を検証するために、入試区分とのクロス分析を行います。

以下のヒートマップは、学部と入試区分を掛け合わせ、修業年限期間内卒業率を色で表現したものです。

修業年限期間内卒業率のクロス分析(学部×入試区分)のグラフ

ヒートマップで可視化すれば、例えば工学部における公募推薦入学者の卒業率が66%と、他の区分に比べて特に低い傾向にあることが一目で把握できます。
こうした分析は、教学マネジメント指針が言及する「選抜方法の妥当性」の検証にも資する、重要なエビデンスとなります。

Step 3: 傾向の時間的な変化を捉える(経年推移分析)

Step 2で特定の学部・入試区分に課題がある可能性が示された場合、次はその傾向がいつから続いているのか、時間的な変化を捉えます。

以下のグラフは、入試区分ごとの修業年限期間内卒業率の推移を可視化したものです。

修業年限期間内卒業率の入試区分別推移のグラフ

これにより、例えば「総合型選抜」の卒業率が近年低下傾向にある、あるいは「公募推薦」の卒業率は比較的安定している、といった動的な変化を把握できます。特定の改善策を講じた年度以降、数値が改善しているかどうかの効果検証にも繋がります。

Step 4: 更に詳細な分析へ

IRQuA Touchの特長は、学内外の様々なデータと容易に結合できる点にあります。
例えば、卒業状況のデータにGPAデータを掛け合わせることで、「入試区分だけでなく、入学後のどの段階で、どのような学修状況の学生が、その後の卒業に影響を受けているのか」といった、より複合的な要因分析が可能になります。

これにより、入口の段階だけでなく、入学後の教育や支援のあり方を検討するための、より解像度の高い示唆を得ることができます。

まとめ

本記事では、IRQuA Touchを用いて、修業年限期間内卒業率という一つの指標を、多角的に分析するプロセスをご紹介しました。

学部・学科間の比較という全体像の把握から、入試区分とのクロス分析、さらには経年変化の把握まで、段階的に分析を深めていくことで、従来の集計値の分析だけでは見えてこなかった傾向や課題の背景を、より具体的に探ることが可能になります。

教育の質の向上、教学マネジメントの高度化に向け、本記事でご紹介したアプローチとともにIRQuA Touchをお役立ていただけましたら幸いです。